吹奏楽情報サイト ブラスフリーク

吹奏楽の情報サイトにして行こうと。自分は愛知県の人間なので、とりあえず東海地区中心にコンクールの情報、吹奏楽曲のお話、中高生の部活の進め方、指導者様や部長、副部長が感じるであろう部活の問題の解決など、様々な視点から吹奏楽を語ってまいります。

吹奏楽コンクール名演奏を語る 1985年 天理高校 セントアンソニーヴァリエーションズ

吹奏楽コンクール名演奏を語る

セントアンソニーヴァリエーションズ 

1985年 天理高校

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この年のコンクールの詳細が知りたい方はこちら。(オタクはみんな知っているマニアにはたまらないサイトです)

吹奏楽コンクールデータベース (1985年 全国大会 高校Aの部) - Musica Bella

 

というわけで、吹奏楽コンクールの名演奏と言われて一番に出てくるのは古ーい演奏だけどこれ。

 

1985年、自分はまだ中学生。もちろん吹奏楽部に所属していて、小学生の頃からクラッシク音楽は聴いてたけど、吹奏楽にハマりだしたのはこの年から。自分は元々四国の人間。中学がそこそこ上手な部でコンクールでは四国大会に出場するレベルの学校だったんです。四国大会に行って他の学校のめちゃくちゃ上手い演奏を聴いてるうちに「コンクール」というものにハマったんですね。

 

 

今のようにインターネットなどはない時代ですし、まだCDも一般的には世に出てない時代。今のようにコンクールの演奏がどこでも買えるなんて奇跡みたいなもので(;^_^A

今の人からすると考えられないと思いますが、CDそのものが一般人が目にする事はなく、CDプレーヤー(ただCDを再生するだけ)が何十万円もする時代だったんですよ。嘘ちゃうねん。まだレコードとカセットテープの時代で(⌒-⌒; )

 

さらに四国は本州と陸続きではなかったので(瀬戸大橋はまだ工事中。四国と本州を繋ぐのは大鳴門橋だけ)なかなか何も輸入されず、、、。

 

輸入て(;^_^A

 

なので全国大会の演奏を聴く方法は大会そのものを聴きに行く以外にただ一つ

 

毎週日曜日の朝にNHKーFMで放送されてた「ブラスの響き」と言う番組。

 

これしかなかったんです。

 

それ以外の時期もちゃんと聴いてから日曜日の練習に行ってましたが、コンクールの金賞受賞団体の演奏が放送される時期(毎年1月~2月)は毎週日曜日が楽しみで仕方なかったのを覚えてます。

 

この天理高校のセントアンソニーヴァリエーションズ、当時のブラスの響きの放送では、時間の都合で冒頭の「序奏」の部分は省かれ、この曲のテーマ「聖・アントニウスのコラール」の部分からの放送でした。

当時はまだ中学生。音楽をまともに勉強したことも無いただの吹奏楽部員だったので、何がすごいとか全く理解できなかったけど、とにかくすごい演奏だったなと。

このセントアンソニーヴァリエーションズはまだ全然メジャーな曲ではなく、後述しますが吹奏楽コンクールではこの年の数年前に「文教大学」が演奏してるのみで、全くの無名曲だったんです。

 

しかし実は自分、この曲そのものではありませんが、この曲のテーマ「聖・アントニウスのコラール」は、小学校のリコーダー合奏で演奏した事があったんです。なので曲が流れて来た時に耳を持っていかれました。

 

大人になって、様々音楽も勉強してみて、しかしこの演奏はやっぱりすげーなと。

 

天理高校のセントアンソニーヴァリエーションズの凄さ

 

トゥッティの音の塊の作り方

序奏〜テーマが終わって第一変奏、単純なリズムを6回繰り返すわけですが、この場面で圧倒的な合奏力の高さを感じます。

普通、低音とかホルンは高音楽器のニュアンスに合わせると音が細くなったりキツくなったりするものですが、楽器のニュアンスはそれぞれ違うのに発音からバランスまでぴったり。チューバなんてあの音の響きであれだけニュアンスを合わせるのは相当難しいはず。「全体が鳴ってさらに勢いのある音」が出てるんですね。

 

低音の響き

この曲、様々演奏を聴いてると「第三変奏」以外の場面では低音はおろそかにされがちですが、この天理高校の演奏は曲全体にわたって低音が圧倒的な響きで絶大な存在感を示してます。

 

個人技術、アンサンブル力の高さ

序奏の後のテーマの木管アンサンブル〜金管アンサンブル、第二変奏のサックスなど、随所に個人技術の高さ、アンサンブル力の高さが見られます。

 

ダイナミクス

これはこの年の全国大会終了後にバンドピープル等の雑誌で散々語られてましたね。とにかく演奏に妥協がない。ダイナミクスレンジと言うのが他の学校とは明らかに違う。やってた人ならわかると思いますが、大きな音は管楽器だけでは限度があって、しかし打楽器を含めて考えればそんな神経質になる必要はない。しかしその無理やり鳴らさない大きな音を生かす為の弱音が管楽器にはかなりの難題で、攻めたくても攻めれない学校が多い中、この天理高校の演奏はそこを圧倒的に攻める。テーマの木管アンサンブルから金管アンサンブルに移る時のホルンなんて、あんなのビビってブルってしまいそうだけど全然。自然な音でしかもしっかりボリュームも絞れてる。Fの音だから出しやすいとは言え絶品。最後の伸ばしも一度音量を下げてからのffまでのクレッシェンドは凄い。なかなかこんなことは高校生には出来ないなと。

 

言い出したらキリがないんでこの辺で(⌒-⌒; )

 

セントアンソニーヴァリエーションズ(St.Anthony Variations)

セント・アンソニー・ヴァリエーションズ【St.Anthony Variations】《コンクール版》 - 吹奏楽の楽譜販売はミュージックエイト

 

セントアンソニーヴァリエーションズはウイリアムH.ヒルが1979年に作曲した吹奏楽曲。ヴァリエーションというのは日本語に訳すと「変奏曲」

 

変奏曲とは

一つの主題(メロディー)を用いてその主題を様々な形に変えて曲を作る。変奏曲にも様々あって、メロディーそのものの形を変えて演奏するもの。(トランペットの超絶技巧曲で有名なヴェニスの謝肉祭とか)もあれば、その曲のコード進行を使ったり、動きだけを模して和音を様々複雑怪奇にしたり。作曲家の腕が鳴る作曲技法と言えます。

 

ヴェニスの謝肉祭

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演奏しているのはセルゲイ・ナカリャコフ。超絶技巧と超美男子で売り出したトランペット奏者。あれから何年経ったのか、ナカリャコフも老けたなあ。しかし演奏は円熟味を増して若い頃より全然素敵。様々聴いてみたけどこのヴェニスの謝肉祭は絶品です。

 

戻して(;^_^A

 

このセントアンソニーヴァリエーションズの主題となっているのは、ハイドン作曲の「ディヴェルティメントHob.Ⅱ.46」の二楽章「聖アントニウスのコラール」と呼ばれる曲のメロディー。

 

アントニウスのコラール

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セントアンソニーヴァリエーションズでは序奏の後のテーマでこのままのメロディーが演奏されますね。テーマ以外の部分はそれ単独で聴くと聖アントニウスのコラールとは全く違う音楽ですが、しかしテーマを元に作られた音楽なんでしょう(;^_^A

 

実はこのセントアンソニーヴァリエーションズ、天理高校が演奏したのはW.ヒルが作曲したセントアンソニーヴァリエーションズとは違う曲、日本の吹奏楽コンクールで頻繁に演奏されているセントアンソニーヴァリエーションズは、1981年に文教大学吹奏楽コンクールで演奏した際に文教大学の指揮者であった柳田孝義氏が改編したものを、1985年に天理高校が演奏した際に関係者の中屋幸男氏がさらに改編を加えた天理高校ヴァージョン。この二つの改編は両方ともW.ヒルの許可を得て改編しており、W.ヒル自身も改編版を演奏したことがあると言うことです。

 

セントアンソニーヴァリエーションズ 原典版

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途中もやや違いますが、まあカットと言えばカットな感じ。しかしラストが全く違いますね。曲の最後に最初のテーマ「聖アントニウスのコラール」をもう一度登場させて壮大なクライマックスを作り上げてます。

 

まあ、難しいことは良いとして、このセントアンソニーヴァリエーションズ、1985年に天理高校が全国大会で金賞を受賞。ブラスの響きでお茶の間に流れるや一気に吹奏楽ファンの間で有名になり、そこから吹奏楽コンクールで爆発的に演奏されるようになり、今でもちょくちょく演奏している団体を見かけます。技術的難易度は極めて高い曲なので演奏するには相当の技術力と気合が必要です(;^_^A